「……よろしかったのですか?姫君の薔薇冠(プリンテッシン・ローゼンクローネ)と言えば、今、若い貴族の娘たちの間で話題になっている香水でしょう。原料が特別なために数が限られていて、一国の王族ですら、伝手(つて)が無ければ入手困難と言われている……」
 子爵の姿が見えなくなったところで、アーベントがこっそり()いてくる。
「いいのよ。同じ人から高価な贈り物を受け取るのは、三度までと決めているの。どんなに値が張ろうと稀少な品だろうと、変えるつもりは無いわ」

 きっぱりと言い切るシャーリィに、アーベントはけげんそうに首をひねった。
「なぜ“三度”なのか、(うかが)ってもよろしいですか?」
「……一度も受け取らないのでは、情の無い王女とそしられるか、『自分は王女の眼中にも入らない無価値な人間なのだ』と、相手を絶望させてしまう。二度目を断れば、一度目は受け取ったのにと言い返されてしまう。かと言って、際限(さいげん)無く受け取っていたのでは、贈り物がどんどんエスカレートしていって、最後には贈った相手が破産するわ。だから、三度までにしているの。三度受け取れば、後はもう『これ以上贈り物を(いただ)くのは悪いから』と断れるわ」

 その説明に、アーベントは(あき)れているのか感嘆(かんたん)しているのか分からない相槌(あいづち)を返してきた。
「……大変なのですね。光の宝玉姫というのも。ほぼ毎日のように贈り物を(いただ)いていらっしゃるというのに、誰から何回(いただ)いたのかまで覚えていなければならないなんて」
「もう慣れたわ。物心ついた頃から、ずっとだもの」

 答えるシャーリィの表情は、心なしか沈んで見えた。アーベントはその様子に気づいているのかいないのか、ふいに話題を変えてくる。
「姫様の理想の方というのは、どのような方なのですか?」
「え……?」
「私が姫様付きの騎士に着任して以来、姫様が言い寄る男たちを上手にあしらわれるところは、何度も拝見していますが、お心を通わされているような場面には、一度も遭遇(そうぐう)したことがありませんので。興味がございます」

「上手にあしらうって、その言い方はいただけないわね……」
 アーベントの物言いに、一応は怒ったような態度を示しながらも、シャーリィはアーベントの問いについて頭を(めぐ)らせてみる。