「シャルリーネ姫！」
回廊に立っていたのは、いかにも貴族らしく、仕立ての良い華やかなコートに身を包んだ青年。
「まぁ、ローターハウゼン子爵ではないの。どうなさったの？」
「あの……ど、どうかこれを受け取って下さい。姫様のために特別に取り寄せた『姫君の薔薇冠』です」
姫君の薔薇冠――それは時空の宝玉を守護する隣国フローレインで作られる、稀少な香水の名だ。王城の温室で栽培される、特別な紅薔薇からしか作れないその香水は、ほんの数滴だけで、まるでつけた本人が薔薇と化してしまったかのような、自然で甘い芳香を発する。
子爵は緊張した面持ちで、綺麗に包装された小箱を差し出してくる。だがシャーリィは、困ったような顔で微笑むだけで、受け取ろうとはしない。
「ありがとう。でもあなたからは、もう三度も贈り物を頂いているもの。これ以上は受け取れないわ。お気持ちだけ頂いておくわね」
「そんな……っ、これを手に入れるのに、私は相当な努力と代価を支払ったんです！生半可な品では姫様に不釣合いと思い、無理を承知で、必死に伝手を辿って……！姫様が受け取って下さらなければ、全てが無駄になります！」
シャーリィは一瞬、迷うように瞳をさまよわせた。が、すぐに表情を改め告げる。
「ごめんなさい。あなたのお気持ちは嬉しいわ。でも他の方からも、四度目以降の贈り物は断っているの。申し訳ないけれど、あなただけを例外にすることはできないわ」
「ですが……」
なおも何かを言おうとする子爵の口を、微笑みで封じ、シャーリィはそのまま優雅なお辞儀を残してその場を後にした。
