出会いから数週間。シャーリィとアーベントの距離は急速に(ちぢ)んでいった。
 ただし、それはあくまで主従として。あるいは“仲の良い友人”としての距離で、互いを恋愛対象として意識しているわけではなかった。
 だが、シャーリィにとっては“仲の良い異性の友人”ができたというだけでも、充分に新鮮で楽しいものだった。

 日が()つごとに、アーベントのシャーリィに対する言動は、どんどん遠慮(えんりょ)をなくしていく。その言動は毎度シャーリィに驚きを与えたが、決して不快なものではなかった。

 アーベントが現れるまで、彼女に対等な口の()き方をしてくれる人間などほとんどいなかった。王族としてそれが当たり前のことなのだとは知っていても、やはりシャーリィは(さみ)しかった。
 心のどこかでは(あこが)れ、求めていたのだ。思ったことを素直にぶつけ合える『友人』という存在を。

「お待たせ、アーベント。お散歩に行きましょう」
 長かった宝玉操術(ほうぎょくそうじゅつ)の講義を終え、シャーリィはいつものようにアーベントに声を()ける。

 アーベントはちらりと廊下に置かれた時計に目をやり、眉を寄せた。
「よろしいのですか?先ほどの授業、少し時間が()びてしまったようですが……ここでいつも通りに休憩を取られては、次のクラヴサンのレッスンに間に合わないのでは?」

「いいの。こんなに疲れた頭でレッスンを受けても、身が入らないわ。先生には事情を話して分かってもらうから大丈夫よ」
「またいつものように、にっこり微笑(わら)って誤魔化(ごまか)されるわけですか。前々から思っていたのですが、そういうのを宝玉の濫用(らんよう)と言うのでは?」

「あら。これだって光の宝玉姫としての修行の一環(いっかん)よ。光の宝玉姫たる者、微笑み一つで他者に言うことを聞かせられないようでは、いざという時、話にならないわ。光の宝玉姫の笑顔は、立派な武器の一つ。私はこの微笑みで、友好国との関係を強化し、民衆の支持率を上げ、国を守っていかなくてはいけないんですからね」
「……相変わらずよく回るお口ですが、それは先ほどの授業の受け売りですか?」
 図星をつかれ、シャーリィはかっと(ほお)を赤らめた。

「もうっ、アーベントの意地悪。そういうことには気づかない振りをしていてよ」
 振り返り、アーベントに向けて(こぶし)を振り上げる真似(まね)をしたその時、二人の会話に割り込むように、若い男の呼び声が響いた。