「失礼だと言ったのは、そのことじゃないわ。私から言い出したことですもの。どんな無礼な感想でも、甘んじて受け入れるわ。でもね、あなたの言葉には、女性に対する偏見(へんけん)()けて見える気がするのだけど……。あなた、『女は男をたぶらかす悪い生き物』みたいな先入観を、持っていないでしょうね?」

 口を(はさ)(すき)も与えない、弾丸のような速度でまくし立て、これ見よがしに大げさなため息をついてみせると、アーベントは初めて戸惑ったように眉を寄せた。

「あの、そのようなことは断じて……しかし……中にはそういう女性も、実際に……いえ、ですが、全ての女性がそうだと思っているわけでは……」
 先刻までの落ち着きが嘘のような、しどろもどろの言い(わけ)。シャーリィは(こら)えきれず、くすくすと忍び笑いを()らした。その様子にアーベントはハッと表情を変える。

「まさか……王女殿下、私をおからかいになったのですか?」
 わずかに怒りをにじませたようなその声に、シャーリィはしれっと答える。
「あら、私はただ、教えてあげようとしただけよ。宮中では、本音はどうあれ、建前としてはフェミニズムが浸透(しんとう)しているの。女性を()(ざま)に言ったりしたら、すぐに敵を作ることになるのよ」

「それはそれは、ご指南痛み入ります。ですが、王女殿下に初めて拝謁(はいえつ)し、緊張に震えている新人騎士に対し、そのような態度は、いささか行き過ぎかと存じますが?」
「よく言うわね。私が怒った顔をしてみせても平然としていた人が。あなたほど(きも)()わった人、私は今まで見たことないわよ?特にさっきの『感想』。いくら思ったままを言えと言っても、あそこまで言う人はなかなかいないわ」

「それが私の性分(しょうぶん)ですので。お気に召されないのでしたら、これからは(つつし)みますが」
「ほら、その言い方。あなたって、負けず嫌いなのね。王女に対してまでケンカ腰だなんて……。面白いわ。今まで私の周りにはいなかったタイプよ」
 その言葉に、今度はアーベントが目を丸くした。

「お怒りにならないのですか?私を」
「まさか。むしろ(うれ)しいわ。これからも、どんどん思ったままのことを言ってちょうだい。王女だからと遠慮(えんりょ)はしないで」
「……変わった方ですね。あなたは」
 その(つぶや)きは、呆れているようにも、感嘆(かんたん)しているようにも聞こえた。

「あなただって変わり者じゃない」
 両手を腰に当て、わざと怒ったようなポーズを作って言い返した後、シャーリィはにっこり笑って胸を張る。

「変わり者の王女と変わり者の騎士。良い組み合わせだと思うわ。私たち、きっと良い主従になれるわ。そうでしょう?」
 アーベントは数度瞬きをした後、(あきら)めたように苦笑を浮かべた。
「……そうかもしれませんね」

 代々軍人の家系として知られるクライト侯爵家の次男であり、シュタイナー公爵家現当主の実姉(じっし)を母に持つ青年、アーベント・クライト。

 これが彼とシャーリィとの、初めての出会いだった。