本当に彼には宝玉の魅力(ちから)が通じないのかもしれない。だが、にわかには信じられず、シャーリィは確かめようとでもいうように、おそるおそる口を開いた。

「あなた、私を見て、どう思う?」
「は……?そう(おっしゃ)られましても、私は、本日初めて王女殿下に(まみ)えたばかりですので、何とも……」
「第一印象でいいのよ。今、こうして私を目の前にして、どう思うか、正直に答えて。どんなことを言っても怒らないから」

「そう(おっしゃ)られましても……。お噂通りのお美しい方だと存じますが」
「お世辞なんか要らないわ。思ったままの言葉を言ってちょうだい。光の宝玉の魅力(ちから)の通じない人が、私を初めて見てどう思うのか、知りたいの」

 シャーリィは真剣だった。アーベントに、本当に宝玉の魅力(ちから)が効いていないのかどうか、どうしても確かめておかなくてはならない。
 もしかしたら、これが最初で最後かもしれないのだ。宝玉の魅力(ちから)の通じない人間が、自分のそばに仕えてくれるのは。

 アーベントは、それでもしばらくは口を開くのに躊躇(ちゅうちょ)していたが、やがて覚悟を決めたかのように表情を変えた。
「正直に申し上げて、本当によろしいのですね?」
「ええ。(かま)わないわ」

「では、申し上げますが……。私はこうして初めて王女殿下に拝謁(はいえつ)し、恐れながら、想像していたよりも、ごく普通の御方だと存じ上げました」
 思ってもみなかった感想に、シャーリィは目を丸くする。
「……想像していたより普通?どういうこと?思っていたより美人じゃなかったということ?」

「まさか、とんでもございません。想像していたよりも、ずっと真っ当な姫君だということです。何せ、私がお噂だけで想像していた王女殿下は、もっと男を惑わす毒々しい魅力を持った、“魔性(ましょう)の姫君”だったものですから。ですが、今こうして私の目の前におられる王女殿下は、そのような所などまるで無い、そういう意味では平凡な……そう、まるで歳相応(としそうおう)の乙女のようにお見受け致します」
 シャーリィは(なか)ば呆然として、その言葉を聞いた。

 アーベントの言葉は言い方こそ丁寧(ていねい)なものの、内容はとても王族に対するものとは思えない、無礼極まりないものだった。シャーリィを“魔性の女”と思っていた、と告白しているのだから……。

 シャーリィは、しばらく()みしめるように、その言葉を胸の内で繰り返してみる。

「王女殿下?」
 なかなか反応を返さないシャーリィに、アーベントはいぶかしげに呼びかける。シャーリィは眉を上げ、頬を(ふく)らませてみせた。

「あなたって、なかなか失礼な人みたいね」
「お噂だけで、勝手な想像をしておりましたことについては、謝罪致します。しかし、正直に思ったことを述べよと(おっしゃ)られたのは、王女殿下だったかと存じ上げますが?それに私は元々、歯に(きぬ)を着せぬ性質(たち)でして。もしお気に()されないのであれば、この場で罷免(ひめん)して(いただ)いても結構(けっこう)ですが」
 怒ったようなシャーリィの顔に(ひる)むことなく、アーベントは冷静に言葉を返す。

 その憎らしいまでに落ち着き払った態度に、思わずシャーリィは(ほお)をほころばせた。
 やはり、彼には宝玉の魅力(ちから)は通じていないらしい。今までシャーリィに対し、このような態度を取ってきた男などいないのだから。