大陸一の美しさを(ほこ)る、白亜(はくあ)の宮殿・満月宮(シュロス・フォルモント)。その地下には、厚い扉で幾重(いくえ)にも守られた地下宝物庫(ほうもつこ)が存在する。

 宮廷女官(きゅうていにょかん)は今日も重い手押車を押し、その宝物庫へと続くスロープを下る。
 慣れた手つきで(じょう)(はず)し、中へと入った彼女達は、室内を見渡し、困惑(こんわく)したように(まゆ)を寄せた。
 
「……先輩。どこにしまいましょうか、これ。何だか、もう入れる場所が無いように見えるんですけど」

 室内は(すで)に、どの(たな)隙間(すきま)無く、宝物で()()くされていた。

「無くても、何とかして入れるしかないでしょう。その辺に放り出しておくわけにはいかないんだから」
 先輩と呼ばれた女官は、手押車に()せられた宝飾品に目をやり、ため息をつく。

 藍青色(らんせいしょく)の色石に、小粒ダイヤの星を散りばめて造られた天球儀(てんきゅうぎ)
 細い銀線を編み上げ、羽根の一枚一枚までをも表現した小鳥の置物に、それを囲う金の鳥籠(とりかご)
 宝石細工(ほうせきざいく)花束(はなたば)
 七色の光を弾き返す虹硝子(がらす)のビーズと、純白の鳥の羽毛を織り()ぜた、総レースのストール。

 これらは全て、ただ一人の姫君に(ささ)げられた(おく)り物だ。
 
 リヒトシュライフェ王国第一王女、マリア・シャルリーネ・エーデルシュテルン。

 大陸一の美姫と(うた)われる彼女の元には、熱烈な求婚者達から毎日のように貴重(きちょう)(おく)り物が届けられる。
 彼女が生まれてから十四年。その数は(すで)に宝物庫一室を()め尽くし、それでもなお、留まることを知らず増えていく。
 
「それにしても……姫様って、一体どんな方なんですか?これだけの物を(ささ)げられてらっしゃるんですから、相当(そうとう)に美しい方なんでしょうけど……その贈り物も、中身を確認しただけですぐに宝物庫行きだなんて、何だかもったいないって言うか……贈ってきた方々が可哀想(かわいそう)です」
 どこか皮肉を()びたようなその声音に、先輩と呼ばれた方の女官は苦笑した。

「そうだったわ。あなたはまだ一度も、姫様にお目にかかったことがないのだったわね。一目見ればあなたも納得(なっとく)するわ。それはもう『光の宝玉姫(ほうぎょくき)』にふさわしい、輝くように美しい王女殿下なのですもの」

「『光の宝玉姫』か……。いいですよね、持つ者を美しく光り輝かせる宝玉なんて。美人に育つことを竜神様のお力で保証されてるわけじゃないですか。そのおかげで、恋人はよりどりみどり、贈り物だって数えきれないほどにもらって……。私も宝玉姫に生まれたかったですよ」
 まだ少女と言っても良いくらいに若い後輩女官の、その言葉の中には、(かく)しきれない嫉妬(しっと)の色がにじんでいた。