愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)


 長い史学の授業の後には、束(つか)の間(ま)の休憩(きゅうけい)時間が入る。

 シャーリィはいつものように、廊下に出て、控(ひか)えている騎士に声をかけた。
「リアン、お待たせ。さ、お散歩に行きましょう」
「はっ」
 騎士は短く返答し、シャーリィの一歩後について歩き出す。

 彼、フローリアン・クローゼは、入れ替わりの激しいシャーリィの親衛隊の中では一番の古株であり、彼女の一番の『お気に入り』でもあった。
「ねぇリアン。今日の私、どこか違うと思わない?」

 思わせぶりに微笑み、シャーリィは廊下(ろうか)の中央で、くるりと一回転してみせた。
 端(はし)をわざと長く残して結んだリボンが、白金の髪に絡(から)まり、ふわりと揺れる。
 フローリアンは困惑(こんわく)したように眉(まゆ)を寄せた。

「あの……もしや、ドレスを新調なさいましたか?」
「正解!よく分かったわね。どう?似合う?リアンに一番に感想を聞こうと思っていたの」
 無邪気に問いを重ねながら、シャーリィは長いドレスの裾(すそ)を持ち、再び回転してみせる。

 肩と鎖骨(さこつ)を露(あらわ)にしたそのドレスは、それまで彼女が身に着(つ)けてきたものとは違う、やや大人びたデザインのものだった。

 たっぷりのシャーリングを寄せ、女性らしくふくらみを持たせた胸元のすぐ下には、細いリボンの飾り帯。
 それは一見無造作(むぞうさ)に巻きつけてあるように見えて、絶妙な配置で腰まで続き、華奢(きゃしゃ)なウエストラインを際立(きわだ)たせる。

 優美なマーメイドラインを描くスカートは、ドレープもフリルも無い無地の純白。ただし裾(すそ)の縁取(ふちど)りに、ごく控(ひか)え目に繊細(せんさい)な金糸の刺繍(ししゅう)が施(ほどこ)してあった。

 ドレス自体の華美さより、身にまとった際のシルエットの美しさを最重視して作られた、シンプルなドレス。
 それはかえってシャーリィ自身の魅力を高め、まだあどけなさを残す少女に、ほのかな色香をも添(そ)えていた。

「お美しいです……。とても……」
 眩(まぶ)しいものを見るように目を細め、フローリアンは声を上擦(うわず)らせた。
 その目が、一瞬ひどく苦しげに歪(ゆが)む。しかし、シャーリィは気づかなかった。

 シャーリィは満足したように頷(うなず)き、再び前を向いて歩き出す。
 その足取りは彼女の機嫌の良さを表し、弾(はず)むように軽やかだった。
 その後をついてくるフローリアンの、ぎこちないほどに重い足取りとはうらはらに……。