シャーリィが再び目を覚ました時、ウィレスの顔は変わらずすぐそばにあった。
 満月宮の、シャーリィの寝室。

 ウィレスは身体のあちこちに包帯(ほうたい)を巻き、切られて短くなった前髪の下に黒い眼帯(がんたい)をつけていた。
 ただでさえ周囲を威圧(いあつ)するその姿に、まるで歴戦の猛者(もさ)の戦いの痕跡(こんせき)のようなものまで加わり、余計(よけい)(すご)みが増して見える。
 
「目覚めたか、シャーリィ。身体の具合はどうだ?」
「……特に何も変わりはないみたい。お兄様は?」
「傷はどれも軽傷だ。(あと)が残ることもあるまい」

「どうして眼帯なんて……。目に怪我(けが)はしていなかったはずよね?」
 なぜ、そこまでして顔を(かく)そうとするのか、シャーリィには理解できなかった。
 そもそもそんなことをしていては、剣を(あつか)うにも何をするにも不便だろうに……。
 
「……例の件は、表向きには、悪戯心(いたずらごころ)を起こして王女と二人で抜け出したアーベントが、山賊(さんぞく)襲撃(しゅうげき)()い、宝玉の力を感知して駆けつけた私も、その戦闘に巻き込まれたということにしてある」
 ウィレスはシャーリィの問いには答えず、別の話をしだした。

「真相を知るのは、父上と一部の重臣達だけだ。誰かに()かれても、上手(うま)く話を合わせてくれ」
「分かったわ。……シュタイナー家に(とが)めが行くことはないのね?」
「ああ。(とが)めようにも、証拠(しょうこ)が無い。アーベントはあの有様(ありさま)だし、正気に戻ったとして、口を割るとも思えんしな」