「お兄様……」
 ウィレスの腕の中で、シャーリィは目覚めた。
「大丈夫か、シャーリィ」
「……ええ。何だかひどく(つか)れているけど、大丈夫みたい……」

 言って、シャーリィはアーベントに視線を移す。
 アーベントは、別人のように(ほう)けた顔でシャーリィのことを見つめていた。

「アーベント……」
 名を呼ぶと、アーベントは(はじ)かれたようにシャーリィのそばに駆け寄って来る。
「姫様、姫様……あぁ、何てお美しい……姫様……」
 まるで他の言葉を忘れてしまったかのように、アーベントはシャーリィへの賛辞を並べ立てる。
 それは、王妃の賛辞を口にする時のミルトに酷似(こくじ)していた。

 シャーリィの顔が(ゆが)む。
「私は……何ということを……」
「お前のせいではない!お前は私を助けてくれた。そうだろう?」
 (かば)うような優しい声。だが、シャーリィは涙を止めることができなかった。

 精神世界で垣間(かいま)見たアーベントの想いが――シャーリィがその手で奪い去った彼の想いが、痛いほどに心を(さいな)み続ける。
 
「今は休め。あれだけの力を使ったのだ。相当に精神を消耗(しょうもう)しているだろう。後のことはいいから、眠ってしまえ。私が、ずっとそばにいてやるから……」
 優しく髪を()でられ、シャーリィは泣きながら目を閉じた。
 
 とても、安らかに眠れる気分などではなかったが……それでも、今のシャーリィにできることは、そうしてウィレスを安心させることだけだったから……。