シャーリィは(すで)に知っている。アーベントの、セラフィニエに対する、痛いほどに熱い想いを。
 アーベントの記憶をたどると(とも)に、まるで自分自身の想いであるかのように、それを味わったのだから……。
 
 暗闇(くらやみ)の人生の中に唯一(とも)った、宝物のように美しい恋心。
 しかし、その想いは、もう跡形(あとかた)も無く失われてしまったのだ。

(そうね、仕方(しかた)の無いことなのかもしれない。あれだけの想いを、私は消してしまったのですもの……)
 (ばつ)を受け入れようとするように、シャーリィは目を閉じた。

 その時――ふいに、誰かに(うで)(つか)まえられる。
「え……?」
 痛みが半減する。シャーリィは目を開き、驚愕(きょうがく)した。

「……お兄様!? 」
「俺も、光の宝玉守りの資質(・・)を持つ者。(あやつ)ることはできずとも、お前に力を貸すことくらいならできる。一人では()いきれぬ代償も、俺が半分、()()えば……」
「そんな……待って、お兄様!これは全て、私の罪!半分だって、お兄様が背負う必要なんてない!」

「罪が有ろうと無かろうと、必要が有ろうと無かろうと、これが俺の意思だ。お前の命を、魂を、光の宝玉に奪わせはしない!」
 その強い声に、シャーリィは瞳を見開く。
 これまでとは別の意味で、涙が(あふ)れた。

「戻ろう、シャーリィ。(うつつ)の世界へ。もう、全ては終わったのだ」
 言って、ウィレスはシャーリィの手を引く。
 白金の竜も、身を()く炎も、いつの間にか消え去っていた。そして……シャーリィの意識が、現実へと戻る。