(恋なんて、少しも甘くも幸せでもないじゃない。こんなに心が傷ついて……痛くて(つら)くて(たま)らないなんて……こんなの、暴力と同じだわ。こんなにも、想うたびに苦しくて(たま)らないのに、それでも想わずにはいられないなんて。それでもまだ好きだなんて……どういう自虐趣味(じぎゃくしゅみ)なのよ)
 
 決して来ないと分かっているウィレスを、それでも心の中で呼び続けながら、シャーリィはいつまでもそこで(ひざ)を抱えていた。
 
 その時、ふいにシャーリィの耳が物音を拾った。階段をゆっくり上ってくる足音。
 ウィレスが来てくれたのかと淡い期待を抱き、シャーリィは屋上の入り口に目を()らす。だが階段を上って現れたのは……
 
「ここにいらっしゃったのですか、姫様」
「……アーベント?どうしてここに……」
 予想もしなかった人物の登場に、シャーリィは思わず立ち上がり、目を(またた)かせる。
 アーベントには、まだこの場所を教えていないはずだった。
「申し訳ありません。姫様がこの塔に入って行かれるのを、たまたま見かけたものですから。邪魔(じゃま)をしてはいけないと思い、塔の外で警備しておりましたが、なかなかお出にならないので、こうして様子を(うかが)いに……」
 そう言って、改めてシャーリィの顔に目をやり、アーベントははっと表情を変えた。
「何か、悲しいことでもあったのですか?」