(どうして、こんなことを言わなきゃいけないの。どうして……ただお互いに好きなだけでは駄目(だめ)なの?)

 シャーリィの瞳は涙に(うる)んでいた。
 ウィレスはその瞳に縛られてしまったように、しばらくの間、身動き一つできずにいた。

「私は、お前に幸せになってもらいたいのだ」
「……何を言っているの、お兄様」

何故(なぜ)、苦悩すると分かっている道を、あえて選ぼうとする?お前は、お前を幸せにできる男と結ばれるべきだ」
 シャーリィの(ほお)に皮肉な笑みが浮かぶ。涙を目にいっぱい()めたまま、それでもシャーリィは微笑んだ。

「ひどいことを言うのね、お兄様……」
 目尻から(こぼ)れ落ちそうな涙の(しずく)を、乱暴に手の甲で(ぬぐ)い、シャーリィは震えそうになるのを必死に(こら)え、毅然(きぜん)と口を開く。

「分かったわ。お兄様は、私が何を言おうと、受け入れるつもりは無いのね」
「……ああ」
「お気を(わずら)わせて、ごめんなさい。……もう行くわ」

 それだけを何とか告げ、後はもう(たま)らずに、ウィレスの元から()け去る。
 
 シャーリィの去った後、室内には壁を(こぶし)(なぐ)りつける(にぶ)い音が響き渡った。

「……何故(なぜ)だ。何故、俺なんだ、シャーリィ。こんなはずではなかった……お前を苦しめることなど、望んではいないのに」