「お兄様!私と一緒に逃げて!真実を秘めたままでも、禁忌の恋だと誤解されても(かま)わない!全ての恥と罪を私達二人がかぶって、それで丸く(おさ)まるなら……。それで、誰も私達の顔を知らない、どこか遠い所へ逃げれば……」
 シャーリィの必死の言葉を(さえぎ)り、ウィレスは静かに問う。

「許されると思うのか、それが」
「……え?」

「王太子も宝玉姫も、簡単に代わりのきくようなものではない。その責務を、己の私欲のために放棄(ほうき)するのか。これまで支持してきてくれた国民全てを裏切って」

「でも……私は正当な宝玉姫ではないのに」
「それでもお前が宝玉姫だ。お前はその重さを、よく知っているはずだ。その重荷を他人に押しつけて逃げるつもりなのか?」
 
 シャーリィの脳裏(のうり)に、一瞬セラフィニエの顔が浮かんだ。
 彼女に宝玉姫の運命を押しつけたくないと思ったのは、ほんの数ヶ月前のこと。
 あの時のシャーリィはまだ、全てと引き()えにしても(かま)わないほどの恋など知らなかった。だが、今のシャーリィは……。
 
「お兄様は……私を選んではくれないのね」

(違う。こんなことを言いたいんじゃない。お兄様を責めて、どうしようと言うの?)
 理性を裏切り、唇が勝手に言葉を(つむ)ぐ。
 
 本当はもう、分かっているのだ。許されない恋なのだということくらい。
 けれど、感情がどうしても納得(なっとく)してくれない。
 数ヶ月悩み抜いて、ようやく告白することができたのだ。それなのに……。

「私より、王太子としての立場を選ぶと言うのね。私のために、全てを()ててはくれないのね!」