「どうしてお兄様は、いつもそうなの!? 最後にはいつも、私のワガママを聞いて!私、ひどい女でしょう!? 散々お兄様を振り回して、冷たいこと言って、ひどいことして……。なのに、どうして私のこと嫌いにならないの!? 」

 返ってきたのは、どこか(あき)れたような、それでいてひどく優しく響く声だった。

今更(いまさら)、嫌いになどなるわけがないだろう。私が何年お前を見てきたと思っている。お前のわがままな所も、意地っ張りな所も、ひねくれた所も、優しさも不器用さも長所も欠点も、全て知っている。お前が宝玉姫としての運命を(いと)いながらも、必死にそれに()えてきたこともな」

 シャーリィは最早(もはや)、言葉を返すことができなかった。こみあげてくる嗚咽(おえつ)(こら)えることができない。
 兄の胸に顔を(うず)めたまま、これまでより(さら)に激しく泣きじゃくる。

(どうしてなの。どうして、お兄様はそんな人なの。止められるはずがない。そんな風に大事にされて、好きになるのを止められるわけないじゃない!)

 兄の胸は温かかった。そして、他のどんな場所より安心できた。数ヶ月ぶりに訪れた安らぎに、シャーリィの心が()いでいく。

 シャーリィの嗚咽(おえつ)はだんだんと小さくなり、そのうちに、ぴたりと止んだ。

 ウィレスの胸にかかる体重が、心なしか重くなる。ウィレスはそっとシャーリィの顔を(のぞ)き込んだ。
 シャーリィはウィレスの胸にもたれかかったまま、瞳を閉じ、静かな呼吸を繰り返していた。