すっかり時間が経ち、解散をし始めた頃。
「また会いましょうね!連絡しますよ」と渚達夫婦も帰り、治達兄弟も帰ることになった。
「渉、ちょっと待っててくれ」
帰りは別だが、渉とは久しぶりに飲む約束をしている。
「ん?いいけど…。じゃ、車の中で待ってるよ」
「悪い」
それから夏希の元へ行き、結愛に聞いたことを話す。
凛はいなかった。
「……結愛が、俺を?」
「こんな時に言うのもあれだが…なんだ、その……言っておいた方がいいと思ったんだ」
「……そっか。」
夏希は嬉しいも悲しいも言わず、ただひたすらに「ありがとう」と言った。
そこに凛が駆け付ける。
「夏希!ここに居たんだ、尊くんが……」
立ち止まった凛は、夏希と治を見て「どうしたの?」と言った。
「……いや、なんでもない。尊が、どうした?」
「ちょっと、話したいんだって。でも先に聞かせて」
凛にはバレバレのようだ。
夏希はどうすればいいか聞くように治の顔を見たが、判断をするのは夏希だ。
治は表情を和らげた。
「夏希、教えて。隠し事は、なしだよ」
「……わかった」
夏希がそう言ったところで、治は後ろに下がっていく。
「じゃあ…俺はもう、帰るよ。渉も待ってるからさ」
手を上げると、二人ともこちらを見た。
先に俯き加減の夏希が口を開いた。
「そっか。また連絡するよ」
「治先生、来てくれてありがとうございました!」
「こちらこそ感動させてもらいましたよ。また会おうな。」
「はい!」
凛は笑顔で応えたけれど、夏希は引きつった笑いを見せるだけだ。
後ろに下がっていた足を止めて、駆け足で夏希の正面に戻る。
ビックリするような様子を見せた夏希の両頬をパチンっと叩く。
「痛っ!え!?」
「夏希!」
「はい!」
「お前今日から旦那になるんだぞ!」
「え…」
「しっかりしろよ夏希!こんな事でグニャグニャになってんじゃねぇよ!」
「お…治……」
「夏希!」
「あ、はい!」
「凛を幸せに出来んのかよ!?」
「……できます!」
その張った声に、思わず泣きそうになる。
……もう、暫くは彼らに会えないから。
両頬に触れていた手を離して、また後ずさりする。
夏希は、少し強くなった表情を見せた。
教師になってよかったな、と思うのは、自分の生徒の成長が見られること。
「夏希」
「うん」
「幸せになれよ」
「……うん!」
その後のことはよく知らない。
二人だけが知っている秘密。
教師でも、親戚でもわからない。
今日から夫婦になった二人。
これからも愛し合っていく二人。
無性に、妻に会いたくなった。
「お待たせ」
「遅かったな治。どこの飲み屋行くか」
「ハタチのときに初めて行ったとこにしようぜ」
「あぁ、べっぴんさんがいるからって成人した直後にお前が行きたがったとこか。」
「行ってよかったけどな」
当時その飲み屋でバイトしていた人が、現在の妻だった。
たわいもない話をしながらその飲み屋に向かう。
もう、妻はいないけれど、懐かしい雰囲気が頭の中に蘇る。
「転任、するんだっけ。」
ふと渉の口から出た言葉に、エアコンを操作していた手が止まる。
「……まぁ、な。」
「どこ行くんだ?」
「ここからちょっと遠くてさ。」
転任先は、妻と子供がいる病院を通り過ぎた隣町。
結構距離がある。
「もう後数日後には行くんだ」
「夏希達には……」
「言ってない」
「なんで言わないんだ」
「変に寂しいとか言われたらムズムズするからな」
連絡は取るつもりだけれど、彼らが気が付くまでは言わないことにする。
「長く居たのにな」
「教師も教師で取り残されてる感じがしてさ。変な話、生徒が卒業していくのに俺はできないんだよな」
「もう卒業式終えてんのに、何回も戻ってる感じだろ?」
「そうなんだよ!」
「お前は一生卒業できないんだよ」
「昔は勉強嫌いだったのにな」
笑い合うのも久々で、昔のことを思い出す。
治が教師を目指すと決めた日。
渉が漁師を目指すと決めた日。
それは同じ日だった。
二人で「絶対に叶える」と約束したからこそ今がある。
コイツが兄でよかったと思う。
「一生モンだよな」
「え?」
「なにも」
コイツが兄でよかった。
夏希が親戚でよかった。
凛や渚、尊が生徒でよかった。
教師になれて良かった。
毎日そうやって幸せが増えていく。
どんな些細なことも、幸せに感じていく。
これからもずっと、みんなと一緒に。
コイツらに出会えてよかった。


