本気の恋、してみました。


そのまま車で走ること数十分。

海沿いをずっと進むと橋が見えてきた。

その先には水族館が見える。

「あっ懐かしい!水族館!」

「なんで今日、水族館に行かなかったかわかった?」

「ずっと考えてたけどわかんない」

「今見えてきたから言っちゃうけど」と、橋を通り過ぎながら言った。

水族館に行くのかと思ったら違うのか。

海に行ってそのあと魚を見ようとか言うのかと思ったけど、そんなもんじゃなかった。

目の前には《触れ合いイベント》とかかれた看板が立っている。

「三年前から、この時期に魚と触れ合えるイベントが開催されたんだ」

「三年前?最近だね」

「うん。一年前丁度見かけて治に聞いたら、治の兄貴が開催しているらしい。」

治先生のお兄さんは城田漁業を営む社長さん。

城田兄弟は揃って美男だ。

ちなみに凛達は卒業してから治先生の呼び方を変えた。

夏希は親しみを込めて呼び捨てで呼び、凛や渚、他のみんなは治先生と呼んでいる。

まだおさ先生と呼ぶ人もいるが、言い出したうちのクラスが『語呂悪い』と気付いたらしい。

「渉ー!久しぶりー」

夏希は車の窓を開けて、人混みにいる治先生の兄、(あゆむ)さんを呼んだ。

「渉さん、こんにちは」

「おぉ夏希!凛ちゃん!デートしてんの?」

渉さんは治先生とは反対の元気な性格。

漁師になるために必死だった渉さんは、他県の高校で寮生活を始めた。

だから夏希も、昔の治先生ほどは遊んでいなかったそう。

だからさん付けで呼んでいるのだ。

凛も渉さんとそんなに会ったことは無い。

でも凄くフレンドリーだからすぐに仲良くなった。

「茶化さないでよ。それよりイベント来てあげたんだから振舞って」

「治から聞いてるよ。あそこの駐車場止めといで」

「あいよ」



車を止めて戻ってくると、渉さんが道具を用意していた。

「これなんですか?」

「あれ?夏希から聞いてないの?」

「え?」

夏希の方を見ると、「先言うなよ」と苦笑いしている。

「水族館行かなかったのは、魚に実際に触れ合って欲しいなーと思って」

「実際に触れ合うって……え!ほんとに!?」

スキューバダイビング用の船と道具を渉さんが見せてくれた。

「今から潜れるの!?」

「うん。水着とかは用意してくれてるけど……凛は寒くない?」

「全然寒くない!楽しみすぎて暑い!」

「ふははっ!じゃあいこっか」

更衣室に向かって本日二度目の水着に着替える。

戻ると先に夏希が荷物を預けていた。

「これ絶対無くすなよ!無くしたら、マジでぶっ飛ばすからな!」

「わかったって!夏希が不良倒したの治から聞いてるから脅すなよ!怖いだろ?」

「これだけはホントに……とにかく金庫にでも入れとけ!!!!」

大声を出して渉さんを責める夏希に駆け寄る。

「ちょっと夏希!なにやってんの!?」

「り、凛……!」

凛を見た瞬間、夏希は持っていた何かを隠して体の後ろを通して渉さんに渡した。

「ん?なにそれ?」

「俺の大事なもの!渉が海に投げようとするから……!」

「悪かったって!冗談!」

「この世に一個しかねぇんだから馬鹿なことすんなっ!」

渉さんは十歳くらい年が離れているのに、まるで男友達みたい。

必死な姿に少しだけ面白くなる。

「大事なものって…形見かなんか?」

「あ、いや……形見じゃないけど……なんて言うか、その…とにかく、大切なんだ」

「……そっか」

それだけ必死になるってことは、よっぽど大事なんだろうな。

「じゃあ行こう」

「あ、おう。渉、船出して」

「はいよ」

船に乗り込み、揺られながら沖を離れていった。


          ♥


「あぁ楽しかったー!!」

船から降りて、ライフジャケットを脱ぐ。

「珊瑚とかめっちゃ色鮮やかだしさ!」

「魚の感想は?」

「美味しそうだったね!」

「そういう事じゃ……」

「あはははっ!嘘嘘!なんか思ったより可愛かったな」

めちゃくちゃカラフルな魚もいれば、目が大きくてクリックリな魚もいた。

「でも渉さん」と前を歩いている渉さんに声をかける。

「なんだ?」

「これは、ちょっと…」

指さしたのは、色んな人が行き交う中でいくつかある屋台。

さっき見たばかりの魚と同じ種類の魚が、屋根の下で焼かれている。

一緒に泳いだ魚も、いつかはああなると思うと少し寂しくなる。

子供もいる中で、いいのだろうか。

「あぁ、よく子連れの親御さんにも叱られるよ」

「じゃあなんで続けてるんですか?」

「俺はちょいと考え方が違ってさ。泳いだ後に死んだ魚見るの、嫌かもしれないけど…だからこそひとつの命を頂いてるって事を身に染みてわかって貰いたいんだ」

「泳ぐ前でもよくない?」

夏希が口を挟むと、渉さんは首を横に振った。

「そっちのがいいかもしんないけど、俺は普段出来ないことをして欲しいんだよ。先にただ食べるだけじゃ、家の食卓と変わんねぇだろ」

「まぁたしかに」

「あまりよくないけど、でもやっぱり小さい頃から知って欲しいし、それをやらせてくれる親御さんもいい人だと思うよ」

優しく笑った顔は、治先生にそっくりだった。

やっぱりこういう気持ちがあるからこそ、漁師になれたんだな。

「じゃあ、凛ちゃん達も……」

「俺ら食ってきたのよ」

「え」