桜雨、さようなら




 痛みは、もう感じなかった。



 気づくと意識がぼんやりしてて、体はもちろんのこと、指先一つだって動かせなくって。



 ___あれ、私…なにしてたんだっけ…

 ___早く帰らないと……雨…が…


 働かない頭で呑気(のんき)に考えていた。
 誰かの慌てたような声も、叫び声も、怒鳴り声も…雨の降る音でさえも、ほんの少し前まで聞こえていた音が全て消えていく。
 段々とまぶたが重たくなってきて…我慢できずに目を閉じた。





 「…あれ……?」


 ふと目が覚めたら、なぜか学校で、

 あ、夢かぁ…良かった…って思って、


 でも、違った。
 そうじゃなかった。




 
 私に気づかないクラスの皆。
 机の上に飾られた、真新しい菊の花。
 それを見て、友達と先生…そして。


 大好きなキミが、泣いていたから。




 私は自分が死んだことを、悟った。