「本当に、何もできなかった新人の私をご指導くださりありがとうございました」
「本社でも頑張れよ」

私は拍手の中、荷物と花束を持って営業所を出た。
徒歩で十分ほどのマンションに帰り着く。

「あ……!」

マンションの前で待っていたのは丞一だ。
この寒空の中、スーツにコートを羽織って待っている。合鍵を持っているのだから、部屋で入っていればいいのに。寒くはないだろうか。

「丞一」

私は駆け寄って、彼を見上げる。丞一が柔らかく微笑んだ。

「一年半、お疲れ様」

職場の事情とはいえ、半年追加で残留を決めたのは私だ。丞一は私の気持ちを理解してくれた。
約束より長い離れ離れの生活も、ふたりで乗り越えてきた。私も少しは大人になっただろうか。自分の足で立てているだろうか。
まだ全然自信はないけれど、こうして地道に歩んでいきたい。これからはこの人の隣で。今度こそ、離れずに。

「寒かったんじゃない? 部屋に入っていてくれてよかったんだよ」
「そうだな」
「結構待ったでしょう。お待たせしてごめんね」
「ああ、結構待ったな」

そう言うと丞一はいきなり目の前で片膝をついた。

「え、なに?」

驚く私を見上げる丞一は目を笑みの形に細めた。

「型どおりにしたいんだ」

彼の手のひらには小箱が乗っている。そして、その中には大きな石のついたデザインリング。

「ぼたん、俺と結婚してほしい」
「嘘……気が早いよ」
「結構待ったと言っただろう。子どもの頃から数えたら20年以上待ってる。この一年半は特に長かった。このくらいはご褒美をもらえないと困る」