義兄の甘美な愛のままに~エリート御曹司の激情に抗えない~

病院で刑事さんに事情を聞かれ、被害届を提出するかどうかと言われているところに、丞一と義父が到着した。

「丞一」
「ぼたん!」

駆け寄ってきた丞一が周囲の目もはばからず、私を抱きしめる。

「痛いところはないか?」
「平気、平気よ」

そう答えながら涙が出てしまった。張り詰めていたものが、丞一の顔を見たらほどけた。必死で抑えていた恐怖がぶわっとふくらみ、あふれたようだった。

「すみません、少し落ち着いてからでもいいですか」

丞一は刑事さんたちに断ってくれ、私が泣き止むまでそうして抱きしめていてくれた。
その後、簡単な事情聴取が終わり、警察関係者は病院から去って行った。
入れ違いに、今度は叔母夫妻と蘭奈さんが病室を訪れた。事情はもう伝わっており、三人ともうなだれていた。雄太郎さんの独断だったようだ。

「雄太郎のしたことは到底許されることではない。親族内のもめごととして、被害届は出さないつもりだ」

義父が険しい顔でそう言った。
私には先にその旨を伝え、謝ってくれている。私だって、天ケ瀬のスキャンダルになることを公表したくはないので、被害届を出すつもりはなかった。

「しかし、原賀くん、松美、もう私はおまえたちを庇えないよ」

それまで静かに黙っていた丞一が、叔母夫妻に二冊のファイルを手渡す。

「ここ五年の表向きの売り上げデータです。そしてこちらは、おふたりが作った裏帳簿」

ふたりの表情が硬く凍り付く。驚く私の傍で義父が目を伏せた。義父もすでにすべて知っている様子だ。