義兄の甘美な愛のままに~エリート御曹司の激情に抗えない~

私は必死に立ち上がる。テープがはがせないので、そのまま丞一に駆け寄り体当たりをした。
たいした威力ではなかったけれど、丞一が私を見下ろす。そしていっそう顔に怒気をひらめかせた。

「んーっ!」

私は首を左右に振り、拘束されたままの両手で大きな手を押しとどめる。駄目だ。殴ったらこの男の思うつぼだ。

「キャー!」

駐車場に叫び声が響き渡り、私は驚いてそちらを見た。マンションの住人だろう女性と男性がこの状況を発見したのだ。男性が駆け寄ってきた。

「どうしました!?」

まず私の口のテープを外してくれるので私は叫んだ。

「丞一、駄目! 何もしちゃ駄目!」
「ぼたん」
「この人はあなたを挑発したくてこんなことを……! 絶対に手出ししちゃ駄目!」

私の叫びに丞一の上が緩み、ようやく雄太郎さんを解放したのだった。その頃には悲鳴をあげた女性が通報していた。



雄太郎さんは駆けつけた警察官に同行を求められ、連れていかれた。たくらみが失敗したせいか、自暴自棄な表情の彼は、私も丞一も見ることなくパトカーに乗り込んだ。

私は念のため病院に搬送されることになり、人生で初めて救急車に乗るという経験をした。丞一と私たちを助けたご夫婦は警察で事情を聞かれたようだ。
私は腕に痣、手足や顔に擦り傷があるくらい。蹴られ踏みつけられた腹も、あとあと内出血の痣くらいはできるかもしれないが、内臓に問題はないそうだ。頑丈でよかったとつくづく思う。