「親父は笑ってたぞ。『ぼたんにも選ぶ権利があるから、強引なことはするなよ』って。俺は紳士だから、強引なことはしないがな」
「してるしてる」

突っ込みつつ、頭の処理が追い付かない。ということは、義父は義理の兄妹の恋を認めているということだ。

はっと気づく。マンションに遊びに来てと義父を誘ったとき、『丞一に怒られそうだ』と苦笑いをしていた。それって兄の独占欲を知って遠慮していたの?

「私はてっきり、反対されるんじゃないかって。反対はされなくても、悲しませてしまうんじゃないかって思ってた」
「大企業のトップは寛容で柔軟性が高い……というのは言い様で、結局親父は、俺もぼたんも大事なんだよ。ふたりが幸せなら問題ないと言っていた。むしろ、ぼたんをどこの馬の骨かわからない人間にやるくらいなら俺がもらったほうが安心だとさ。親馬鹿だ」

義兄はグラスの水をごくんと飲む。それから私をまっすぐに見据えた。

「さあ、これであとはなんの障壁をクリアしたらいい? 何を乗り越えたら、ぼたんは俺のものになってくれる?」
「お兄ちゃん、そういうところが紳士じゃないからね。強引だからね」
「俺はひたむきなだけだ」

義兄は楽しそうに笑っていた。
義兄の言う通り、またひとつ障壁がなくなってしまった。私は……本当にこの人のものになるの? なってもいいの?
妙にドキドキしてしまって、美味しいはずのイタリアンは味わう余裕もなかった。