「お父さんも疲れたでしょう。ゆっくり休んでね。お兄ちゃんと私のマンションにも遊びにきてくれると嬉しいな」

娘らしく言うと、義父はふふふと笑った。

「丞一に怒られてしまいそうだなあ。……そうそう、来月のすみれさんの命日は、三人でお墓参りに行こうな」

私は義父に微笑み、見送りに出てくれた使用人たちに挨拶をして久しぶりの天ケ瀬家を出た。
義兄は叔母夫妻につかまっている。早く戻ってこられるといいのだけれど。


義兄が帰宅したのは夜半だった。
私は出迎えに出て、ほっとした。帰ってきてれくた、そんなふうに思えた。
お茶を入れてダイニングテーブルに置く。

「お疲れ様」
「ぼたんこそ、疲れただろう」

義兄はジャケットをソファに放り、ダイニングチェアにどっかりと座った。普段の仕事より疲労感が濃そうだ。

「今日は叔母さんからかばってくれてありがとう。家族だって言ってくれて嬉しかった」
「俺は未来の妻として“家族”と言ったけれどな」

義兄はうそぶいて、それから嘆息した。

「親父とすみれさんの再婚から、俺がおまえを避けたのはあの人たちの存在が大きい」

義兄は昨日はぐらかしたことを言おうとしているようだ。私はお盆を抱きしめるように持って立ち、義兄の言葉を待つ。