「私は昔から丞一くんのお嫁さんになりたいって言ってるけどなあ」
「駄目だ」

すり寄る蘭奈さんを冷たい目で見降ろし、義兄がばっさりと言った。それは空気を読まない蘭奈さんの上をいく対応だった。

「俺には好きな女がいる。その相手と将来を考えているから無理だ。これは何度もおまえに言っているぞ、蘭奈」
「そんなの断る口実でしょ。いつも同じことを言って断るんだもの。私はもう大人よ。子ども扱いしないでちょうだい」

子ども扱いしているわけじゃない。
義兄の想い人というのは……。私は頬が赤くならないようにうつむいて唇をかみしめた。
憤る蘭奈さんを無視し、義兄は叔母夫妻に向かって言った。

「叔母さん、ぼたんは亡き義母の忘れ形見です。俺にも父にも大事な家族です。滅多なことを言わないでください」
「あら、私はぼたんさんのためを思っただけ。天ケ瀬の令嬢なんて肩書を持っていたら、男性は臆してしまう。この先自由に恋愛するのも苦労するわ。それに、あなたたち親子によくない感情を持つ人間だっているのよ。ぼたんさんまで標的にしたいの?」
「ぼたんは俺と父で守る。あなた方の心配は不要です」

叔母がぐっと詰まると、その横で突如哄笑したのは雄太郎さんだった。

「母さん、余計な気をまわすもんじゃないよ。丞一は家族想いなんだから、そんな言い方されたら嫌に決まってるだろう」