「ねえ、お兄さん、いい機会だしぼたんさんは天ケ瀬家の籍を抜けてもらったら?」

自分では考えていたことだけれど、叔母に言われるとは。
いや、叔母ならそう考えてもおかしくない。この家の資産も権力も自分に集中させたいと思っている人だ。連れ子である私は邪魔でしかないだろう。

「ぼたんさんをいつまでも天ケ瀬家に縛り付けておくのは可哀想よ。もう大人なんだし、自由にさせてあげないと。天ケ瀬家の人間だなんて、ぼたんさんの人生には枷にしかならないでしょう」
「ねえ、ママ。あの件もちゃんと言ってよ」

叔母の横で蘭奈さんが言い添える。叔母が私の隣の義兄に視線を移した。

「丞一さん、そろそろ考えてくれたかしら? 蘭奈との婚約」

婚約!?
寝耳に水の話に私は凍り付いた。義兄の婚約者は、義父が探しているはずだとは思っていたけれど、その相手が従妹の蘭奈さん?

「松美、丞一の結婚相手のことは私も慎重に考えている。おまえたち家族で勝手を言わないでくれ。ぼたんのこともおまえたちが口出しすることじゃない」

義父が眉をひそめて嘆息する。義父は優しさも厳しさもある人だが、実妹の押しの強いところと感情的なところには手を焼いているようだ。

「ねえ、丞一くんは私じゃ駄目?」

蘭奈さんが義父たちを無視して、義兄の前に歩み寄る。母親譲りのはっきりした顔立ちは、どこか義兄にも似ている。