義兄の甘美な愛のままに~エリート御曹司の激情に抗えない~

キッチンから追い出されてしまった。気づけば後ろで義兄が面白そうに見ていた。いつの間にそこにいたのだろう。

「おまえは、一応この家のお嬢様なんだから、そりゃ手伝わせてもらえないさ」
「でも」
「おまえをお嬢様だと認めたくない連中がこれからくる。嫌な想いをするだろうから、それまではせめて俺と親父とゆっくりしていろ」

義兄に伴われ、家族の居間に戻る。義父と話しているうちに晩餐会の時間は近づき、続々と親族が天ケ瀬家にやってきた。

「お兄さん、今日はお招きありがとう」

松美叔母とご主人の原賀氏、息子の雄太郎さんと娘の蘭奈(らんな)さんが居間に顔を出す。
雄太郎さんは兄のひとつ上、蘭奈さんは私よりひとつ上。

松美叔母はふっくらとした腕で居間のテーブルにウィスキーを置いた。義父の好きな銘柄のシングルカスク。手土産なのだろう。
晩餐会の会場である客間ではなく、家族の居間にずかずかと入りこんでくるのは、この家が彼女の実家でもあるからだ。

「あら、ぼたんさん、大きくなったわね。すみれさんに似てきたわ」

叔母は今気づいたとばかりにわざとらしく私を見た。

「この前のパーティーではあまり話もできなかったけれど、あなたもこの春から社会人でしょう」

叔母家族が来たタイミングで席を譲り、私と義兄は義父の座るソファの後ろに立っている。私は頷いて答えた。

「はい。輸入食品の商社に入社しました」
「あら、じゃあもうひとりで生活できるわねえ」

叔母は大仰に言い、義父に向き直る。顔をぐーっと近づけて、楽しそうに進言するのだ。