義兄の甘美な愛のままに~エリート御曹司の激情に抗えない~

「まあまあ。お兄さんの気持ちはともかく、天ケ瀬さんを大事に想ってるのは間違いないんじゃない? 天ケ瀬さん、仕事や飲み会で遅くなったりするときは、俺と狭山さんでお兄さんに説明するから安心してよ」

林田くんは私の困惑に気づいたのか、それ以上追及しないでいてくれた。
お店を変えてその後も飲み、気づけば日付が変わる時間になっていた。
私はまだ終電がありタクシーでも帰れる距離だが、ふたりはそろそろ終電だ。楽しくてかなり長時間の会になってしまった。明日が休みでよかった。天ケ瀬家の晩餐会も夕方だし、午前中はゆっくりしよう。

清算を頼み、帰り仕度をしていると、スマホが振動した。

「あれ」

義兄からメッセージだ。

【今、どこにいる。近くにきている】

会社の近くにいるとは伝えたけれど、まさか迎えにきたのだろうか。一緒に帰ろうという意味だろう。
驚きつつ、店の名前と場所を送る。さらに【駅で待っていて】とも付け加える。

しかし三人で居酒屋の入っているビルを出ると、大通りの一時駐車スペースに車をつけた兄がいた。
びしっときめたダークスーツ。ツーブロックの髪は一筋も乱れていない。

「お兄ちゃん……」

私の横で、狭山さんと林田くんがびっくりしているのがわかる。
それはそうだろう。義兄は二十五歳の年齢には見えないほど落ち着いている。身に着けているものも、車も、一般の二十五歳会社員が持ち得るものではない。
そして冷たく見えるほどに整った顔立ちも、他を寄せ付けない雰囲気を醸し出している。