義兄との同居生活はこうしてスタートした。驚くほど平穏な毎日である。

一番の理由は、義兄が忙しく食卓を囲むことはもちろん、家の中でもあまり顔を合わせないからだろう。週末も仕事関係の外出が多く、パーティーなどにも出席していたようだ。
なお、そのことを教えてくれたのは義父。

義父は離れている間もちょくちょくメッセージをくれ、私の生活を気遣ってくれた。亡き母への義理立てもあるのだろう。
同居から十日、義父からのメッセージがきた。

【ぼたんは体調などをくずしていないかい。次の土曜の夜は、天ケ瀬家での晩餐会だけど、気づまりなら無理はしなくていいからね】

そう、次の土曜は叔母や父の従兄弟たち家族を招いた晩餐会が、天ケ瀬家本宅で開かれる。先日のパーティー同様、本家の娘の扱いの私は出席しなければならない。
今までは遠方を理由に断れたけれど、これからもたびたびこういったことがあるのだろう。

【お父さん、ありがとう。出席します。お父さんの好きな大福を買っていくので、晩餐会の前にこっそり食べようね】

義父のことは母の再婚までは『社長』と呼んでいた。再婚以降は義兄をお兄ちゃんと呼ぶように、『お父さん』と呼ぶことにしている。そうすると、義父が嬉しそうにするからだ。前妻も再婚相手も早くに亡くした義父にはなるべく笑っていてほしい。