「ナサ!」

 ナサが門をくぐったあと北門の外で、大きなぶつあう音が聞こえた。これはナサがーー親父と呼んだトラと体当たりした音なのだろうか。

 すざましい衝撃音だ。


"ガオオオォォォォォォォーーーン!!!"


「グッ、やっぱり親父はつぇなぁ! だが負けねぇ!」

 獣の鳴き声とナサの声が聞こえた。

 ナサに何かあったら逃げろと言われていたけど……心配で、重い盾を持ちながら門に近付いた。門について時につき荒れる風、目の絵で繰り広げられる獣の同士のぶつかり合い。

 その横で、アサト達は固唾を飲んで見守っていた。

(アレが、ナサの……本気? 前の大熊モンスターの時とは比べ物にならない。両者とも、真っ赤な炎に包まれている、アレが覇気?)

 ナサ……の体当たりがまったく効かず焦っている、それに引き換え、トラは余裕があるように見えた。

「クソッ、つえぇ」
 
(……ナサ)

 そして、何度目かのぶつかり合いで、ニヤッと相手とトラが笑った。ナサは何かを感じて、そのトラから離れて距離をとる。

 額に魔法陣をつけて、ナサを目を細めて見るそのトラは両手を広げ、胸を大きく張り叫んだ。

『ウオォォォ! ワシは嬉しい、力をつけたな息子よ!!!!』


 そのトラは強制召喚されたのにも関わらず、言葉を話したのだ。



「「え?」」


 と言う言葉しか出ない。

 この場にいる誰もが呆気に囚われる。トラはケタケタ笑い、ドカッとその場にあぐらをかいた。


『ハッハハ、このワシがこんな"ちっぽけな召喚"に操られるわけがないだろうが!』

 もう、目が点。

『でもな、少し気合を入れて叫んで門が壊れたのには少々驚いたがな……壊して、すまんな!』

 ガハハッと豪快に笑うトラ。と、突然の代わりように警戒していたナサは困惑した顔で。

「おい、親父は正気なのか?」

『そうだ! と言ったら信じるか?』

「訳がわかんねぇ」

 ナサはジッと、そのトラを息をつめてジックリ見つめた。そして……フウッと息を吐き『シッシシ、マジがよ』と眉をひそめてポタポタ涙をこぼした。

『泣くなよ、立派になったな……ナサ。この目で、大きく育った息子が見られるなんて、この呼び掛けに応えて、この地に来られたことに感謝する』

 ……強制召喚なのだけど、ナサもそう思ったらしくて。

「だが親父、それは強制召喚だ……額の魔法陣を壊せば、親父は呪い骨に変わるんだぞ! なんで呼び掛けに応じたんだ!」

 ナサの言う通りだと、北門のそばでウンウン頷いた。

 召喚の呼び掛けに、あのトラの方から答えたような言い方をしている。召喚術を己の力で跳ね返せるのなら、跳ね返して、応えなくてもよかたんじゃない。

(呪い骨になってしまったら…そのあと、どうなるかわからないのだし)

『そうだが、ワシは家族に会いたかった。一目でいい、愛する母さんに会いたかった』

 と恥じらった。