昼の慌ただしいランチの時間帯が終わり、本日の気まぐれ"濃厚カルボナーラ、ランチ"を食べて、ワカとセヤも帰っていった。わたしは厨房の流し台で片付けをしていた。

 厨房のキッチンではミリアが休むことなく、ニンニクチップをカリカリに揚げ、サーロインステーキを焼き始めた。わたしは洗い物を終わらせ、その隣で水にさらしてあったジャガイモのくし切りを素揚げして、塩胡椒で味付けしていた。

 時刻は二時前。

 カランコロンとドアベルか勢いよく鳴り、開いた扉から今日は一番乗りに、カヤとリヤが元気よく飛び込んできたかと思うと、カウンター席からヒョコッと厨房を覗き。


「「こんにちは!!」」


「こんにちは、カヤとリヤ。今日も元気だね!」

「うん、元気だよ。ねえねえ、ミリアとリーヤ聞いて!」
「リーヤ聞いて」
 
「こんにちは、どうしたの?」

 と、料理を二人に出しながら聞いてみると、カヤとリヤはいつものテーブルには行かず、カウンターで楽しそうに話し出した。

「あのね、昨日の夜ね。ウフフ」
「うんうん、昨夜ね……アハハッ」

 思い出し笑いをする二人。

 昨夜と言えば、彼たちが警備する北門に強制に召喚された、魔獣コカトリスが出たはず。二人が何を話すのかと待ってみても、ニコニコするだけで、勿体ぶって中々話そうとしない。

「もう何よ、教えて」

 痺れを切らし聞いてみた"カランコロン"と、ドアベルが鳴り、アサトとロカがいつも通りに入ってきた。
 
「よっ、ミリア、リーヤ」
「こんにちは、今日もお美しいミリアさん。こんにちはいつも可愛いリーヤ」

「いらっしゃい、アサトと、……ロカはいつもと変わらないね。私とリーヤはいま手が離せないから、サーロインステーキをカウンターまで取りに来て」

 カウンターまで取りに来た二人に、焼き立てのサーロインステーキと揚げたてのポテト、キノコスープ、山盛りのご飯をトレーに乗せて渡した。

「リーヤ、ありがとう」
「今日も、いい匂いですね」

「お肉とご飯はまだあるから、足りなかったらおかわりしてね!」

「「わかった」」

 いつものようにテーブル席で食事を始めたのだけど。アサト達と一緒に来るはずのナサの姿が今日はみえない。


(まさか、昨夜、怪我をしたの? 今朝、お兄様達は帰るとき、そんなこと言っていなかったけど……)


 心配になりカウンターで、楽しそうに食事をする二人に聞いてみた。

「カヤ君とリヤ君、ナサはどうしたの?」

「ナサはね……フフッ、昨日のナサは面白かった」
「うん、ほんとうに面白かったね」


 二人に聞いても"面白かった"と、笑って教えてくれない。


「カヤ、リヤ、笑っていないで、ちゃんと教えろ! リーヤ、ナサはただの寝坊だ。もうすぐココに来るよ」

 見兼ねた、アサトが食事の手を止めて教えてくれた。

「ほんと、怪我をしたのかと思ったわ。もう、それならそうと言ってよ、カヤ君、リヤ君!」 

「だって、ナサは昨日も、今日もお寝坊さんだもん」

「え、昨日も、今日も寝坊したの?」

 聞き返すと、

「昨日の夜、魔獣コカトリスを倒すときも、ナサは遅れてきたよ」

「そうそう、寝坊して遅れて来たんだ」

 二人はわたしに身振り手振り大袈裟に話しだした。そんな二人を見て、アサトとロカは呆れた顔を浮かべた。


「……ハァ、お前らは昨夜からズーッとその話だな」
「ほんと、飽きませんね」


「飽きないよ、だって面白いもん。リーヤ、昨日の夜、僕達は魔獣コカトリスに苦戦を強いられたんだ」

「うん、アイツ、触ると石になるから気をつけないといけないし、大変だったよね」

「それは、盾役のナサがいなかったから?」

 二人は頷き。

「そうだね」
「うん、動きも早いから、額の魔法陣を中々壊せなかったんだ」

「それで、どうしたの?」

 二人にカウンターから聞いた。


「「フフッ、リーヤ、ここからが面白いんだ!!」」


 カヤとリヤの興奮した声が重なる。


「遅れて、北門に走ってきたナサに魔獣コカトリスが、"クケェェエーッ"て大声で威嚇したんだ」

「そしたらね、ナサは」


「バ、バカかオマエェーー!! そんな大声で鳴くんじゃねぇ、リーヤに聞こえてココに来ちまったら、どうするんだ!! って叫んだよ」


(え、!)


「ナサの叫びに驚いた、魔獣コカトリスがね『クェッ』て小さく鳴いたんだ。ハハハッ、おかしいよね」

「そのあと魔獣はナサが動きをすぐ止めて、戦うのは"アッ"という間に終わっちゃったんだけどね」


「……そ、そうなんだ」


 二人の話に驚いていたら"カランコロン"とドアベルが鳴り、ナサが眠そうにのっそり入ってきた。

「おっす、ミリア、リーヤ」

「こんにちは、ナサ」
「今日は遅いじゃない、早く食べちゃいな!」

「ああ……」

『クワァッ』と大きな欠伸をしながら、いつものようにカウンター席に座る、ナサにサーロインステーキを出した。
 
「サンキュー、リーヤ」

「ナサ……プププッ」
「フフフッ」

「……ハァ……カヤ、リヤ、お前ら昨日からなんだよ、俺を見るとケタケタ笑いやがって」

 面倒臭そうに頭をポリポリかき、目を細めてカヤとリヤを見る。そんなナサにわたしは伝えた。

「いま、カヤ君とリヤ君に昨夜の話を聞いたよ」

 そう言うとナサは目を大きく開き、わたしから目をそらし、隣にいるカヤとリヤに詰め寄った。

「おい、リーヤには黙ってろって、言っただろう!」

「ごめんね、ナサ、喋っちゃった」
「リーヤに全部、話しちゃった」

 二人がいい終わる前にナサは『カヤ、リヤ!!』と、店の中が揺れるほど大きな声で叫び。カウンター席から逃げようとした、二人の首根っこを素早く両手で掴んだ。

 しかし、二人は捕まっても全く反省の色がみえず。

「だってね、リヤ」
「そうだね、カヤ、面白いもん」

 悪びれなく笑っている。
 そんな二人を見て、ナサは大きなため息をついたのだった。