折れてしまった木刀はもう使えない。誰かの……あの女剣士の剣を借りる。いいえ、わたしよりも強い女剣士に、ワーウルフの魔法陣を破壊してもらうのはどう?

 わたしは小型を気にしつつ、大型と対峙している冒険者たちに声をかけた。

「ねえ、あなた達はこの召喚獣の消し方を知っている?」

「召喚獣の消し方⁉︎」
「この魔物は洞窟から這い出てきた、魔物ではないのか!!」

 ええ、冒険者達、このワーウルフ二体が洞窟から出た魔物ではなく、召喚された魔物だと気付いていない。額に見える魔法陣がその証拠なのに。

 だから、さっきからワーウルフの体を攻めていたの?

「もう一つ聞くけど、あの召喚獣の消し方は知っている?」

 彼らは各々、知らないと首を振った。

 ちょっと待ってそんなの嘘でしょう。曲がりなりにも君たちは冒険者だよね。冒険者が知らないなんて、ガレーン国の冒険者ギルドとか学園で、召喚術について教えないの? 魔物が出る国なんだから、とても大切なことじゃない。

 なぜ?

 この国の北の洞窟には魔物が住む。昔、実験施設では魔物を使い実験を行っていた。となると新しい国王となった今、魔物を利用することが禁止? だとすれば召喚術も禁止? いやいやそれではダメでしょう。

 魔物が出ないリルガルド国のわたし学園で学び知ってる。実際にこんなことが起きてからでは遅いって! もう起きてるのだけど……

「勇ましい女性、すまない。奴のどこを狙えばいいのかを、私達に教えて欲しい!」

「私にも教えて!」

 女剣士と武闘家モンクが気合を入れて、拳と剣を構えて言ってきた。これは期待できるかも……しかし、彼女らに教えようとしても小型ワーウルフの攻撃が止まない。

 衝撃弾が飛ぶ、避けた場所にすぐに飛んでくる、ドゴッ! ドゴッと土をえぐり爆発する。

「ひっ! い、いまから説明するね。ワ、ワーウルフの額に黒い魔方陣が見えない? うわっ、それを壊せばいいの、魔法陣を壊せば奴は消えるから!」

 わたしの説明を聞き、女騎士とモンクは大型のワーウルフの魔法陣を確かめた。

「あ、あれを壊すのか!」
「私たちに出来る?」

 そこで弱気にらないで、いま、あなた達がやらなければ、誰がやるのよ!

「諦めずにやりましょう。わたしも頑張るから、一緒にやればなんとかなるって!」

 彼女たちを力付けて、わたしは折れた木刀の片方を握った。いくぞ、弱気になるな、わたし!

「盾役のあなたに無理を承知でお願いします、大型ワーウルフを挑発して攻撃に耐えてください!!」

 強烈な攻撃に耐えろだなんて、なんて無茶振りなお願いだ。しかし、盾役の人は「了解した!!」と頷いてくれた。

 よし、小型ワーウルフから先に消すと、向き合ったすぐに、チャンスが到来した。小型ワーウルフが衝撃弾を吐く態勢に入ったのだ。わたしは二人に視線で合図を送る。

 作戦はこうだ。

 武器を持たないわたしが真っ先に奴に向けて走る。小型ワーウルフはすかさずわたしに向けて衝撃弾を放つだろう、その隙を騎士とモンクが魔法陣を狙う! それしかない。


「ぐわぁ!!」


 避けきれず衝撃弾を体で受けてわたしな体が飛ばされる。でも今がチャンスだ!! 小型ワーウルフが衝撃弾を放ち放ったあとに奴の額が下がる。

 そこに二人が飛びかかる。

「いけぇ、奴の魔法陣を破壊してぇ!!!!」

 躊躇している暇はない、いけぇ!


「「ティアァァァ!!!!!」」


二人の額に剣と拳が小型ワーウルフの額を壊す。


「【ガリィィィーーーン!】」


 魔方陣の割れる音と黒い煙を吐き、光になって消えていく小型ワーウルフ。完全に消えた後にボドッと地べたに骨が落ちた……黒く煙を纏う骨。

 ゴクッ、初めてみたけどあの骨は危ない。あれに触れると必ず呪いを受ける。あのワーウルフは召喚の契約もなしに強引に呼ばれた。そして戦わされて、傷付けられたワーウルフの恨み満載な骨だ。


「「グルルル…グゥルル……アオォーーーン」」


 地を這う、大型ワーウルフの怒り声が聞こえた。奴は盾役の挑発よりも、小型を消したわたし達を見下ろし、鼻にシワを寄せ牙を剥く。

(ヒィイ……)
 
 これは無理だ、いま小型の衝撃波を喰らいわたしのプロテクト効き目は後一回。大型の衝撃波、爪攻撃、突進を喰らったら確実に動けなくなるか、下手をすれば大怪我だ。

「ひっ!」
「あ、ぁあ……」

 女剣士とモンクは大型ワーウルフの威嚇に怯えて動けそうにない。ここは、まだ動けるわたしがやるしかない、気合を入れて大型に向けて折れた木刀を構えた。


「「早く、こちらに走って来てください。私が奴の攻撃に耐えます!!!」」


 頼もしい盾役に呼ばれた。いま、みんなが助かる道はそれしかないと、近付こうとした隙を狙われた。大型ワーウルフは注意それた女騎士たちに向けて突進した。


「あ、危ない!!」


 わたしは二人を力を込めて盾役の方に突き飛ばした、そこに大型ワーウルフの突進が来る。もろに突進を食らい、みんなとは真逆の方に吹っ飛び地べたに転がった。


「ぐっはぁ!!」 


息がうまくできず、激痛が体にはしる。つぅ、痛い、痛い……なんとか、プロテクトのお陰でおそらく耐えられたかも……でも、目が霞んでこの場から動けない。そばでは大型ワーウルフの鼻息荒く、鋭い爪を、わたしに向けて振りかざそうとしているのに。

「やめろ! こっちに来やがれ!」
「やめて!」

「ワーウルフ、こっちに来い!」

 みんなの命懸けの声が聞こえる、盾役の人がいくら挑発を出しても、大型ワーウルフは見向きもしない。万事休す、こんなときにミリアとみんなの笑い顔が浮かぶ。ごめんね、みんなにともう会えないかもしれない。

 奴が振りかざす爪がスローモーションの様に見えた。この爪でわたしの体は切り裂かれるのだろう。悔しい? そうだね。お父様、お母様、お兄様、弟様……わがままばかりでごめんなさい。

 出来るなら、心が温まるような恋をしたかったな……

 "みんな、ありがとうと" 最後の言葉を呟き、わたしは目を瞑った。