ただそれだけ

彼女のマンションから僕のマンションまでは歩いて1時間ほどだった。

部屋に帰るとシャワーを浴び冷蔵庫から缶ビールを取り出し飲んだ。

窓から高速道路やビルが見える。

あてもなく眺めていた。

時刻は0時を過ぎたところだった。

バーの同僚からの電話だった。

「今からここに来れるかしら?あなたとお話ししたいという人がいるの」

1時間程で着くと伝え電話を切った。

バーに着くとカウンターに1人の女性が座っていた。

川沿いで絵を描いていた女性だ。

急に呼び出してごめんなさいと言い、椅子の上に置いていたバッグを足下に下ろし僕を招いた。

彼女はお姉さんとはあまり顔派似ていないようだった。

僕はジンを頼んだ。

彼女はジャックローズを注文した。

「あなたに会ったことを姉に伝えたの。すごく喜んでたわ。あなた本当に料理が上手なんだろうね」

彼女はそう言うと微笑んだ。

ありがとう。

お互いに大学での話をした。

そういえば僕は同僚と大学での話をあまりしなかったことに気づいた。

彼女は僕の話を聞くと、不思議そうに何が面白いんだろうねと呟いた。

全く同感だ。

この後、3人で飲みに行かないかと誘われたが断った。

今度良かったらお姉さんと2人で来て欲しいと伝え、我々は別れた。

マンションに戻るとソファーに腰をかけた。

携帯を見ると葉月から着信があった。

折り返し電話をすると、今日はありがとうとのことだった。

明日は用事があるかと聞かれたので夕方までだったら空いていると伝えた。

少しだけ買い物に付き合って欲しいとのことだった。

翌朝彼女を車で迎えに行き渋谷まで走った。

彼女はお気に入りの雑貨屋があるとのことでお店に入って行った。

お店に着くと店員の女性が久しぶりねと声をかけてきた。

僕はお久しぶりですと答えた。

「あなたこのお店を知っているの?」

葉月に聞かれたので、知ってるとだけ答えた。

彼女は葉月に見せたいものがあると、絵画が飾られた場所へ案内した。

僕は小物雑貨を見ていた。

葉月が僕のもとへ来ると、この絵は素敵じゃない?と聞いてきた。

キャンプ場で見た川だった。

描いた人の独特の感性が含まれたその絵は実際に川を見た僕の思い出をも超えるものがあった。

とても素敵だ。

僕がそう言うと彼女はレジに持って行った。

本当に素敵な絵だ。