ただそれだけ

今日もまずは準備から開始した。

不足しているものはないかも確認した。

カウンターとテーブルは徐々に埋まっていった。

ドアの開く音がし、カウンターの端に1人の女の子が座った。

「いらっしゃいませ」

僕がそう言うと彼女は辺りを見渡し、何でもいいから一杯もらえるかしら?と言った。

僕は店長にモヒートを注文した。

彼女の前にナッツを出した。

ご飯は食べたのか聞くと、お腹は空いていないとのことだった。

彼女はモヒートを一口呑むと、タバコに火を付けた。

僕は注文を受けては厨房に行き調理した。

「あなたは料理を作れるのね?」

彼女は特に何の感情もなく言った。

仕事だからとだけ言った。

「この前のことだけ忘れたことにしてくれない?」

「僕も何も覚えていないんだ」

彼女は僕の目を見て、下を向いた。

「わかったわ。それが本当なら良いんだけど」

「良かったら僕の奢りで何か作るよ」

彼女は首を振った。

彼女はその後何杯か注文をした。

先輩があの人知り合いなの?と聞いてきたので、同じ大学ですとだけ伝えた。

良かったら今日は彼女とお話したら?私が厨房をメインでするからと言われたが、仕事は仕事なのでと言った。

彼女は黙り込み何か考えているようだった。

彼女はペスカトーレを注文した。

「私が払うから気にしないで」

彼女は少し酔っているようだった。

ピッツァを彼女の前に出すと、しばらく眺めてピザカッターで分けた。

「うん、男性が作ったにしては美味しいわ」

慣れれば誰でもこれくらいはできるのだ。

食べ終える頃には彼女も酔いがまわっていた。

「あなた彼女を家まで送ってあげたら?後は私に任せて。平日だからなんとかなるわよ」

僕は一度断ったが先輩が店長に相談をし、店長からも彼女を送るよう言われた。

「今日はそのまま上がっていいよ」

たしかに彼女は1人で帰れないこともなさそうだったが、もしものことを考えてマンションまで送ることにした。

帰り際先輩は僕の方を見てウインクをした。

彼女にタクシーを呼ぶか聞いたが、歩いて帰るとのことだった。

4月といえども夜は少し冷え込んでいた。

彼女が転ばないよう僕は注意した。

無言のままマンションまで着くと、彼女は何も言わず部屋へと戻った。

僕も帰ることにした。