ただそれだけ

スーパーのレジに行き、アーモンドを3袋購入した。

レジの女性は僕の顔を見るなり、ハッとした表情を浮かべた。

お店に戻りアーモンドを補充した。

「おかえりなさい」

先輩が笑顔で出迎えてくれた。

彼女は子供が2人いる。

嬉しいことに時折僕に作りすぎたからと料理を持ってきてくれる。

僕はお返しに彼女の子供が好きそうなお菓子を渡した。

「あなたは子供が好きなの?きっといいお父さんになれるわ」

彼女は本当にお淑やかな女性で人目をひく魅力があった。

次の日は朝から大学の講義があった。

僕は友人の隣に座り授業開始まで雑談した。

「お前、この前のこと本当に覚えてないのか?」

友人は覗き込むように僕に尋ねた。

覚えていない、僕がそう言うと彼はため息をついた。

「彼女の1人くらい作った方が大学生活も少しは楽しめるぜ?」

教授が教室に入り講義は始まった。

基本的に僕は勉強が嫌いなので、講義の内容はほとんど頭に入らなかった。

昼ごはんは何を食べようか、今日のアルバイトはいそがしくなるだろうか、そんなことを考えていた。

昼休みは友人と食事をした。

僕はカレーライスを食べ、友人はハンバーガーを食べた。

先程から視線を感じていた。

横目でチラッと見ると、昨日のスーパーの女の子だった。

同じ大学だったのだ。

彼女は僕が気づいていることを知ると、全くこちらを見なくなった。

午後の講義は彼と別々だった。

「また今度飲みに行こうぜ」

彼はそう言って去って行った。

午後の講義はと言うと、教室の番号しか覚えてなかった。

教室に入り椅子に座るとバッグの中からノートだけを取り出した。

隣にスーパーの女の子が座って、軽く咳払いをした。

「同じ大学だったんだね?」

そう言うと彼女はバッグの中から教科書とノートを取り出し机に並べた。

それを見て僕も教科書を取り出した。

彼女は沈黙を続け僕も何も喋らなかった。

講義が終わった後、彼女はちょっといいかしら?と僕を人気の少ない場所へ呼んだ。

「この前は私も酔いすぎたみたい」

一瞬何のことか分からなかったが、なんとなく思いあたることはあった。

あの日の夜、僕は女の子の顔を確認せずに出て行ったのだ。

「私もあまり覚えてないの。でも何があったかは知っておきたいから少し時間を作ってもらえると助かるんだけど」

僕はバイト前にもう一つ講義があったので、もし急ぐようであればとアルバイト先を伝えた。