「少し落ち着いたか?」

「ええ」


「とりあえず移動するか」

「え?ちょ、壱流」


手をグイッと引っ張られた。


こんな状況でも強引なんだから…。どしゃぶりの中いつまでも外にいるのは風邪を引くかもしれないけど。


「どこに連れていくの?」

「…」


「壱流」

「……」


壱流は黙ったまま答えようとしない。
手は離してくれない。力強く握ってるのは私の不安を少しでも和らげようとしているのか。


「それで幻夢となにがあったんだ?」

「壱流、ここ…」


「俺のアジトで俺の部屋だが何か問題でもあるか?」

「問題はない、けど」


「けど?なんだよ」

「なんでもないわ」


初めて連れて来られたときは私と壱流は恋人じゃなかった。
変に落ち着かないのは私だけかしら。


「実は幻夢が……」


私は重たい口を開き、壱流に今までのことを話した。幻夢が吸血鬼になるため謎の男と去ったこと。私のために吸血鬼になろうとしてること全てを。


「幻夢を吸血鬼に、か」

「ねぇ壱流。幻夢はただの人間なのに吸血鬼になれるの?私は特別な血を持つ人間だからそれが出来たけど」


「どうだろうな。俺も闇華のお陰で本物の吸血鬼になれたとはいえ、吸血鬼に関しては知らないことのほうが多すぎる」

「そう、よね」


こういうときは吸血鬼に詳しい身近な人に聞くのが手っ取り早いんだろうけど。