「どうして自分は男に生まれてこなかったんだろう。男子と一緒にバレーをしたいのにどうして入れないのかって」
「…………」
「私ね。中学三年の大会で言われちゃったんだ」
「なんて?」
「化け物って」
「はぁ?」
大地がおかしな声を出したので、莉愛は思わず笑ってしまった。
「ふふふっ……酷いよね。でも、相手チームに言われただけなら、褒め言葉ともとれたんだけど、自分のチームの子達にも言われちゃったんだ」
「……何故そんな事を?」
絶句する大地に莉愛が、昔を懐かしむように話し出した。
「中学三年の最後の試合。決勝で、私は全力で戦ったの。その結果、第一セット25-6、第二セット25-4、第三セット25-10で圧勝しちゃって……同じチームの子に『もっとボールに触りたかった。化け物と一緒じゃつまらない』って言われちゃった。……私はあそこで手加減すれば良かったのかな?全力を出したらいけなかったのかな?って、私は分からなくなっちゃったんだ。私が男ならこんな風に悩むことも無かったのにね」
昔を思い出し、莉愛の瞳が揺れると、その瞳から涙が溢れ出した。その涙が月明かりに照らされ、夜空の星や宝石のように輝く。輝きながら落ちる涙を大地は無言で指の腹を使って拭い取ると、莉愛を優しく抱きしめた。
大地は莉愛の悲痛な思いに、胸が締め付けられていた。
全力で戦って嫌味を言われるなんて、それも同じチームの人間に?そんな辛いことがあるのか?大地には想像も出来ない。俺には狼栄の仲間がいて、あいつらを信頼している。そんなあいつらに裏切られたら……。想像しただけでもゾッとする。バレーボールはチームあっての物なのに、一人きりの寂しさ……。
「莉愛……辛かったな」
そう言って大地は莉愛を抱きしめていた右手を、莉愛の頭に乗せ、優しく撫でた。
大地の抱きしめてくれる腕が優しくて、頭を撫でる手が温かくて胸がキュンとして切なくなった。
「大地ありがとう。でも、そんなことされると、勘違いしちゃうよ」
莉愛がおどけて言った台詞に、頭を撫でていた大地の手が、ピタリと止まった。
「いいよ」
「えっ……」
「勘違いしていいよ」
大地の言葉に莉愛の心臓がドキドキと高鳴っていく。
勘違いしていいの?
すると、大地の顔が近づき、唇が重なる数センチ前で止まる。
「よけないと、このままキスするけど良い?」
よける気配の無い莉愛を前に、フッと大地が笑った。
「チュッ」
二人の唇が一瞬だけふれ合った。
うわ~。
何だろう。
男の人の唇ってもっと硬いのかなって、思ってたけど……以外にも柔らかい。
そんな事を思っていると、大地の顔がもう一度近づいてきた。
「もう一回いい?」
ひぇー。
目元を赤くした大地に、そんな風に言われて、断れるわけがない。莉愛は無言で頷いた。
「莉愛……好きだよ」
大地が私を好き?
もう一度、唇が重なると、甘いしびれが体を襲ってくる。思わず大地に縋るように抱きつくと、大地が嬉しそうに抱きしめ返してくれた。
凄く、凄く、幸せな気持ちになって、昔の嫌な記憶も何処かへ行ってしまうほど、幸せな気持ちで上書きされた。
「莉愛は俺の彼女って事で良いんだよね?」
大地の言葉に莉愛はコクリと頷いた。


