「よし、並べる準備するぞ!」

「はい!」

 俺は元々、和菓子職人になるつもりなんてなかった。 でも見習いとして父親の元で修行を積んでいた時、ある出来事が俺を和菓子職人へと導いてくれたんだ。
 あの出来事を、俺は今でも忘れはしない。

「黒糖饅頭、かぼちゃ饅頭出来上がりました!」

「ありがとうございます」

 出来上がりの黒糖饅頭とかぼちゃ饅頭を笑顔で受け取るのは、なぜかずっと気になる菜々海だ。 菜々海は入って二年とは思えないほど、この店によく馴染んでいる。
 今では菜々海は、この店の看板娘としてよく働いてくれているし、自分から積極的に色々と聞いてくる。
 なんやかんやで、店ではみんな菜々海を頼りにしている。

「おい、いちご大福まだか?」

「すみません」

「何やってんだ。 いちご大福待ってる人いるんだぞ!テキパキやらないとダメだろう」

「す、すみません!」

 和菓子職人である以上、中途半端な物は作れない。だからこそ、こうして厳しくしまう。
 ダメだと分かってはいるが、どうしてもいい職人になってほしいという、素直な思いがそこにはあるからだと思う。

「いちご大福は俺がやる。お前はきんつば手伝ってやれ」

「は、はい」