王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく

「要するに毎日靴漬けなのね」

 晴恵が鯉屋の女将が持たせてくれたお茶漬けを食べながらつぶやいた。
 なにか言ったか、と片眉をあげた恋人になんでもない、と微笑む。

 私は留守番だなと晴恵が思う暇もなく、恋人が切り出してきた。

「晴恵、俺と棲まないか。それと休暇には一緒に来てほしい」

 希う智恭の瞳は恐いほどに真剣だった。

 彼女は考える。 
 元々、陽菜とフリッツが結婚したらフットケアサロンを辞めようと思っていた。幸せな妹夫婦の傍で笑っていられる自信がなかったからだ。
 愛する男を得て辞める必要はなくなった、が。

 二人は智恭の工房がある、この家で住むことになるだろう。

 だが、晴恵の勤めるサロンは智恭の家からは一時間半はかかる。
 今までのように遅番勤務のあと店仕舞いまですると終電ギリギリになる。
 早番ですら、今までより早く出勤することになるから、身体的負担はキツくなる。

 けれど智恭にこの家を出て欲しいとは思わない。
 むしろ、晴恵がこの家に住みたい。
 彼が育ったこの商店街も晴恵は大好きだ。
 
「私ね」

 晴恵はゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
 音にすることで心の中の考えが明白になってくるようだ。