次の瞬間、目の前は白い世界だ。

 私はすぐに彼に抱きしめられていたのだと理解する。

 やや甘いお香のような匂いが広がる。

 まるで包み込むように、ふわりと抱かれているうちに、先ほどまでの鈴の音が聞こえないことに気付いた。



「はい、お疲れさん」



 解放されたというのに、ややもの悲しく感じるのはきっとこの人がイケメンだからだろうか。



「そんなに見つめて、なんだ、惚れたか?」

「な、別に惚れてなんてないわ。さっき会ったばかりなのに、なに言っているの?」

「会ったばかり……な。ま、いいや」



 意味ありげに微笑むその顔も、やはりカッコいい。

 歳は二十歳より少し上くらいだろうか。

 着物を着ているところを見ると、芸術家かそっち方面の方だろうかなどと、ぼんやり考えた。



「あの、助けていただきましてありがとうございます」



 きちんと頭を下げてお礼を言う。

 何が起きたのかはイマイチ分からないけど、追いかけてくるアレに捕まっていたら、元の世界には戻っては来れなかっただろう。

 そんな気がした。



「って、ここどこ」



 先ほどの塀で囲まれた日陰の道ではなく、私たちはなぜかうっそうと茂る竹林の中にいた。

 しかしここは息苦しさもなく、音もある。

 確かに私が元いた世界だった。ようやく腹の奥から大きく息を吐き出した。