もうあの頃には戻れなくてもせめて思い出の中に戻れるならば、少しは心が満たされるかもしれないと思ったのだ。


「さなちゃん、一緒にいろんなものを見よう? さなちゃんの気がすむまで……寂しくなくなるまでちゃんと側にいるから」

「またそんな安請け合いを」

「でもこれが正解だと思うから」

『……ありがとぅ』


 風にのって、小さな小さな声が聞こえた気がした。

 私は振り返ることなく、にこやかに笑う。

 夕暮れの中に立つ二人は明らかに呆れた表情をしていたが、私は心の中がなにかで満たされていった気がした。