「あー。ちょうどいいもの、みーつけた。ねぇシン、悪いんだけどこのまま自転車押して?」

「さっきだって助けてやったのに、まだかよ。ちゃんと対価払えよ、対価」



 そのまで言われて思い出す。

 シンへの対価が違う意味で高額だということを。

 この前の頑張って買いに行ったエロ本はもう渡してしまった。

 今、家に渡せそうなものはなにもない。

 とは言っても、この自転車は私では重すぎて動かすことが出来ないのだ。



「それは、わかってるけど」

「けど?」



 シンがニタニタした顔で私を覗き込む。

 なんだか、まるで弱みを握られた気分だ。



「んーっと、えっと……。本?」

「さっきからずっとだからなぁ、さすがにこの前みたいなっていうのもな。ベロチューなら一回で済むんだが?」

「し、しないわよ。絶対無理」

「なんだ、キスしたことないのか」

「あ、あるわけないでしょ」

「ふーん」



 今まで彼氏すらいたことがないのに、キスなどしたことがあるわけがない。

 大体シンとは付き合っているわけでもないのに、いくら対価だとはいえそんなものは払うわけがないだろう。

 あまりに違和感がないから、すぐに忘れてしまうことがある。

 シンは人の姿かたちをしているものの、人ではない。

 もしかすると、この感覚の違いはそこから来るのだろうか。