「あの頃の亜美、スランプ中で
美大を目指しているのに
自分の絵じゃ無理だって
夢を諦めかけてたんだ」
「あんなに上手だったのに」
「ずっと暗い顔をしてたんだけどね
ある日、ハイテンションで
僕のとこに駆けてきたよ。
姫野さんが褒めてくれたって
飛び跳ねてた。
よっぽど嬉しかったんだろうね」
「私、思ったことを
伝えただけだよ」
「もっと多くの人の心を
揺さぶる絵を描きたいって
思いなおしたって。
姫野さんのお陰だって」
嬉しい。
何気ない私の言動に
亜美さんは
感謝してくれたんだ。
「亜美さんって
夢に一直線な人だったんだ」
普段は
冷静なお嬢様みたいなのに
熱い情熱を秘めてるなんて……
「かっこいいし尊敬しちゃうな」
「僕は姫野さんのことを
尊敬してるけど」
「私を?」
「高校の3年間、ずっとね」
私、尊敬されるようなこと
した覚えがないんだけど
「姫野さんは
もう忘れちゃった?」
「なんのこと?」
「入学式の日
僕にスリッパを
手渡してくれた時のこと」
覚えているよ、もちろん。
絶対に忘れるはずない。
だってそれが私の
初恋が芽生えた瞬間だもん。



