「姫野さん、顔見せて」
渚くんの優しい声に
「今は……無理そう……」
私は
たどたどしい声を返す。
「わかったよ。
じゃあ、右手出して」
右手なら……いいけど……
顔を伏せたまま
私は右手を差し出した。
「姫野さんが
喜んでくれるといいんだけど」
薬指にスーッ。
何かがスライドしていく感覚に
私は慌てて顔を上げる。
「これって……」
もしかして……
「僕の第二ボタンだよ。
初恋の子に受け取って欲しくて
指輪に作り替えたんだ」
私の薬指に収められたリング。
その上には
校章が彫られた第二ボタンが。
「渚くんのブレザーのボタン?」
「うん。
昨日、自分で取っちゃった」
本当だ。
ブレザーの
上から二番目のボタンだけついてない。



