「いや、溺れかけたのが良い思い出なやつ普通いねぇだろ。」 「…まぁ、それもそうか。」 思い出したくなかった。 でも海に来ると嫌でも蘇る。 溺れたあの日。 “誰も助けてくれなかったあの日。” 沈む中、暗い海の中から見えた母の顔。 息がしたいのに、口に入ってくる水。 しょっぱいはずなのに、何も感じなくなっていた。 ただ苦しかった。