「いえ、こちらこそです!結局デリバリーも本もお菓子も全部払っていただいちゃって、本当にありがとうございました。……あっ、そういえば和泉さんのお願い、まだ聞いてませんでしたね?」

「……お願い、か……」

「え?」


途端に柔らかく弧を描いていた和泉さんの瞳に切なさの入り混じったような色が灯り、その視線に囚われた私は目が逸らせなくなった。

それと同時に私の左頬に伸ばされた手。



「ーーーー…………灯ちゃん、僕のこと、好きになって」



「………え………?」
 

駅から離れた人通りの少ない閑静な住宅街。高級車特有の静かなエンジン音。

本当に、本当に小さくぽそりと落とされたそれは、遮るほどの賑やかな音のないこの空間でやけに真っ直ぐ私の耳に届いて来てしまったから。

私は目を見開いたまま、まるで金縛りにあったかのように瞬き1つ出来なかった。


「……なんて、ね。……ねぇ灯ちゃん。この3ヶ月の間は週末、今日みたいに灯ちゃんとデートがしたいと思っているんだけど、どうかな?」


だけどそんな私を見つめて困ったようにふ、と表情を緩めた和泉さんは、私の左頬を包んでいた手をそっと離す。

そして何事もなかったかのようにいつもの柔らかい笑みを浮かべて仕切り直した。