「……あのね?灯ちゃん。心配なのはもちろんなんだけど、僕がまだ灯ちゃんともう少し一緒にいたいの。だからここは素直に甘えてくれると嬉しいんだけど」


私の頭をその大きな手でくしゃりと撫で、ちょっと拗ねたようにはにかんだその表情に、私の心臓が大きく跳ねた。

不意打ちのそれに、私の顔がぶわわっと熱を帯びる。

だから、和泉さんはどうしてそういうことをサラッと……!

そのフェイントも何もない和泉さんのどストレートな攻撃に、もう成す術のない私は文句の1つも言うことが出来ず。

信号が青になり、和泉さんが視線を前に戻したのと同時に何とか蚊の鳴くような声で「はい……」と答えれば、心持ち機嫌の良さそうな「ん」という声が返ってきたのだった。



……和泉さんは不思議な人だ。

一緒にいると居心地が良いのに、こうして不意にドキドキさせることを言っては途端に私を居た堪れない気持ちにさせる。

和泉さんといると心がまるで海のようで、穏やかな凪(ナギ)と大荒れの時化(シケ)が常に交互に襲ってくる、そんな感じだった。


そうして私のナビでハイツグリーンに到着する。


「灯ちゃん、今日は僕と1日デートしてくれてありがとう。とても楽しかった」


アパートの前は辛うじて車2台がすれ違えるくらいの道幅。

そこに車を停め、和泉さんが私の方を向いて優しく微笑んだ。