「………へぇ、彼女が」
でもそう呟いた比呂さんから、何となく一瞬無遠慮な視線を投げかけられた気がしたのは気のせいだろうか。
「灯ちゃん、彼はこの近くのRoku(ロク)っていうCAFE&BARのオーナー兼店長の篠原 比呂(シノハラ ヒロ)くん。僕がよくお邪魔しているお店で、彼のフードもドリンクもすっごく美味しいから今日は特別にここまでデリバリーをお願いしちゃいました」
でも戯けた感じでそう紹介された比呂さんは、次の瞬間にはきゅ、と口角を持ち上げて微笑んだ。
……うん、気のせい、か?
「は、初めまして、深町 灯です」
「どーも初めまして、比呂です。ちなみにうちの店、普段デリバリーはやってません。大事なことなんで2回言いましたよ、恭加さん。つーことで、今度は2人で店の方に遊びに来て下さいね?」
「ははっ、ごめんごめん、今度はちゃんとお店に顔出すから」
「待ってまーす。んじゃ、オレバイトに店任せて来ちゃってるんで、そろそろ戻ります」
「ん、今日はありがとうね」
にっ、と笑った比呂さんは、そう言いながら歩き出す。
「あっ、ありがとうございました!」
その背中に私も慌ててお礼を言えば、比呂さんは振り返らずに手だけをひらひらとさせて去って行った。



