「はは、比呂(ヒロ)くん今日はごめんね、ありがとう」
和泉さんは大して悪びれる様子もなく、比呂くんと呼ばれた彼と親しげに言葉を交わす。
「絶対ごめんねって思ってないヤツじゃないですか。まぁ恭加さんの頼みだからいいですけど。はい、これご注文の品です。……ところで、そちらの女性は?」
比呂さんと呼ばれた男性は可笑しそうに笑いながら和泉さんに紙袋を渡すと、今度は私へと視線を移した。
慌てて和泉さんと繋がっていた手を引っ込める。
身長は和泉さんと同じくらいだけど、少し線の細い比呂さんは短髪の黒髪を程よく遊ばせて、切長の漆黒の瞳が印象的な整った顔立ちをしていた。
耳元に光るピアスが少しチャラそうな印象。
和泉さんよりは年下で、私よりは年上といったところだろうか。
飄々とした雰囲気を纏った彼は、なんとなく黒猫を連想させる。
「あっ、えっと……」
「こちら、深町 灯ちゃん。僕が今全力で口説き落とそうとしてる女の子です」
自己紹介をしようと私が口を開けば、和泉さんが代わりにとんでもない紹介の仕方をしてくれる。
「ちょっ……⁉︎和泉さん……っ!」
咄嗟にぐりん!と和泉さんの方へ顔を捻れば、「ん?」と優しく眦を下げた和泉さんに見つめ返されてしまい。
その瞳を見てああ、何かもうこの人これ、本当に冗談でも何でもなく本気で言ってるんだなと思ってしまったら恥ずかし過ぎて直視出来なくなり。
結局私は再びぐりん!と比呂さんの方へ赤くなった顔を戻すしかなくなった。



