「……〜〜ちょっ……⁉︎和泉さんっ、何やってんですか……っ!ここっ、公共の場なんですけど……っ⁉︎」
でもそんな私を物ともせず、時間にしたらたった数秒私を腕の中へ閉じ込めた和泉さんは、
「うん、ごめん。ちょっと我慢できなかった」
私を解放しながらしれっとそんなことを言ってのけ、今度はこちらを覗き込み悪戯っぽく笑った。
「そっ、そこはいい大人なんですからっ、TPOを弁(ワキマ)えてくださいっ!」
「ふはっ、灯ちゃん、その言い方だとTPOを弁えていたら僕は灯にちゃんにこういうことをしてもいいってことになっちゃうけど」
「〜〜〜っ、ちが……っ!そういうことじゃなくてですね………っ」
ちょっとズレたメガネをくいっと直しながら焦って突っ込んだら、何か揚げ足取られた………!
「ははは!こんなおじさんでもね、頭で考えるより先に身体が動いちゃうってこともあるんです。……さ、行こうか灯ちゃん。今日のランチはここでピクニックだよ」
すっかり和泉さんのペースに飲み込まれて1人狼狽えている私を面白そうに笑い飛ばした和泉さんは、何事もなかったかのように自然に私の手を取ってゆっくりと歩き出す。
……ピクニック。なるほど。だからカジュアルな服装でOKで、今日の私の格好は大正解という訳だったのか。
正午にはまだ少し届かない時間だけれど突き抜ける青空は清々しく、降り注ぐ日差しも暖かい。
今日は天気予報のお姉さんが最高気温25度と言っていたし、これは絶好のピクニック日和と言えるだろう。



