「分かりました。しましょう、デート」

「本当?嬉しい。ありがとう」


腹を括ってそう言った私に、心底嬉しそうな声が返ってくる。

それになぜだか胸の奥がきゅ、と掴まれた気がした。


電話なんて仕事以外じゃ家族とくらいしかしないし(それもごく稀)、相手の顔が見えないからただでさえ対面するよりも緊張するのに、和泉さんはその声から何となく表情が窺えるから、少しだけ肩の力が抜ける。

そして和泉さんが水曜日の朝11時、私の家の最寄駅まで車で迎えに来てくれるところまでは決まったのだけど。

……待って。私、自慢じゃないけど25年間生きてきて今まで1度もデートなんてしたことがない。

だからデートに着て行く服が、ない。


スマホを耳に当てたまま慌ててベッドから飛び降りて、すぐ横の備え付けの小さなクローゼットを開ける。

外観は古臭い木造だけど、私が越す前にリフォームしたという室内は外観にそぐわず畳ではなくフローリングの床、収納部分は襖(フスマ)ではなく小さなクローゼット。

一応確認はしてみたものの、基本仕事用の服と普段着数着しか入っていないその中はすっきりとしたもので、漁るまでもなく和泉さんとのデートに着ていけそうな服なんてないのは一目瞭然だった。
  

「……あの、和泉さん。一つ聞いてもいいですか?」

「ん?」

「デートって、何を着て行ったらいいですか……?」

「…………」