和泉さんが困ったように目尻を下げ、私の頬を両手でふわりと包み込む。


「灯ちゃん。返事は弁えているつもりだよ。でもここで断られて終わらせるつもりはないんだ。まずは僕に3ヶ月、チャンスをくれないかな?」

「……チャンス……?」


深い焦茶の瞳に呆然とする私を映し出したまま、真剣な表情で和泉さんは言った。



「そう、灯ちゃんを振り向かせるチャンス。だからこれから3ヶ月、僕とお試しのお付き合いをしてくれませんかーーーー?」



その時、サァーっ、と一際強く吹いた春の風が 、1つに引っ詰めた私の髪と和泉さんの柔らかそうな髪を攫っていった。

散り残った桜の花びらも、一斉に舞い踊る。


ごめんね、なんて言う割に何とも強引で突拍子もないその提案に、私は目をまん丸に見開いたままごくりと唾を飲み込んだ。

目の前で起きている出来事に、到底理解が追いつかない。


私は首を縦に振ることも横に振ることもできず、ただただ惚けたまま和泉さんを見上げることしか出来ないのだったーーーー。